屈託

20/23

27559人が本棚に入れています
本棚に追加
/2188ページ
「……これで満足か?」 静かに尋ねると、朱莉は乾いた笑いを浮かべて頷いた。 「ああ、うん。満足だよ。やっぱり理玖は強い」 俺が棍を引くと、朱莉は仰向けのまま空を見上げた。 「ごめんね。ずっと引き籠っていて」 「いや、悪いのは……俺だから」 ぽつりと呟く。 朱莉は笑いながら首を振った。 「違うよ。理玖は悪くない。やっぱりお母さんのことは誰も悪くない。あれは、事故だから」 朱莉は目を閉じて腕で顔を覆った。 「この間は、ただビックリしちゃっただけだよ。私もまだ子どもだよね。 今日はね、ちょっと理玖がお母さんに勝ったってのが、少し信じられなくて理玖と戦ったんだ。今までは私と戦うとき、少し手を抜いたんでしょ?」 「……」 朱莉の問いには答えずに、視線を落として押し黙った。 実際手加減をしていたつもりはない。 ただ、戦いづらくて、本気を出せていなかったのは確かだろう。
/2188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27559人が本棚に入れています
本棚に追加