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『お分かりになられましたか、お客様?ふうむ…まだお迷いになられているようですな…』
俺の目から迷いを読み取ったのか、悪魔はまた話をはじめた。
『不老不死と言う物は…いや、《不死者》と言う者と言い変えてみましょうか…
私めも数人存じ上げておりますが…彼らは、《死と言う滅び》の呪縛から離れたため…その《滅びを知る者》としての《懸命さ》を忘れてしまったのです。彼らの中にあるのは…深い孤独だけ…
そしてその者達の中には…《限りある生を持つ者達》の陰に隠れ…永劫に近い時間を、怯え暮らす羽目になった者もおりましたな…実に嘆かわしい事です』
悪魔はその端正な顔に、苦渋とも云える表情を浮かべた。
それは俺の迷いを立つのに、充分な効果をもたらした。
『やっぱり…止めよう。不老不死の願いは本当に取り止めだ』
俺の言葉に、悪魔はにっこり微笑んだ。
『ええ…そうでしょうとも、そうでしょうとも…
このベリアル、お客様のお気持ち…よく解ります。
この愚昧なる私めの話に耳を傾け、正しい判断をなされるお客様の賢明さに…私、ほとほと脱帽しております。
で、お客様…他の願い事もお聞かせ願いますか?
ええ…お時間はまだまだありますので…
ごゆっくり、お考え下さい』
悪魔の言葉は、俺の耳に優しく響いた。
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