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『え?お辞めになる?ええ…それがお客様のためになるでしょうな。相変わらずのご賢察、脱帽いたします。
さて、お客様…他の願い事は?』
金持ちになる願いを止めた俺に、悪魔は次の願いを言うように催促した。
『恋人が欲しいな、とびきりの…世界で一番の美人で素晴らしい恋人が欲しい』
不老不死も、金持ちになる願いも止めた俺に残された選択肢はそれだけだった。
『ほう!なるほど…世界一素晴らしい恋人でございますか!
素晴らしい恋人を手に入れて…その愛情を受ければ、その後の人生も素晴らしいものになるに違いない…なるほど、そうお考えになるのも無理からぬことでございます。
けれど、果たして本当にそうでございましょうか?』
怪訝な顔をする俺に、悪魔はさらに言葉を続けた。
『世界一素晴らしい恋人が傍に居る光景を、想像してみてください。
そんな恋人がいたら、きっと誰もがお客様のことを羨みます。ええ…間違いありませんね。
中には、お客様から恋人を奪ってやろう、その幸せをぶち壊してやろう、などと考える輩も出てくるでしょうな。
そうなれば…恋人のことが心配で、他のことには手がつかなくなることでしょう。
そんなことにならなかったとしても、幸せとは限りませんよ。人間は他人から愛情を受けるために己を磨き、輝くことができます。
何にもしなくても素晴らしい恋人からの愛情を受けられる…そんな状態が続けば、人間は腐ってしまいます。
素晴らしい恋人を手に入れた代わりに、己を見失った…そうなるに違いありません。
人間の歴史を紐解いてみれば、美しい女性を巡っての争いなどが…多々見えますな。
例えばトロイ戦争などが、その好例でしょうし…美女にのめり込んで、身を滅ぼした例などでしたら、ええ…それこそ星の数ほどありますねぇ…』
悪魔の言葉に俺の心はぐらついた。
まだ《三つの願い》は叶えてもらっていない。
もう一度よく考えよう…
俺はそう思い、この願いも取り消す事にした。
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