彼、甘くない

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出来ないことは多いけど、出来ないままでは話にならない。 やらなきゃ始まらない。 何もしないと、そこでお終い。 でも、待ち構える文化祭の日程を変更はできず、タイムリミットは刻一刻と近付いてくる。 せっかく部員になったなら、吹奏楽部員としてステージには参加したい。 横での見学も、ましてや形だけの吹き真似などごめんだ。 だから、練習する。 自分の意志で今の時期に入ったからには、頑張るしかない。 「……」 沈黙が守られている空間。 俺はどうってことない。 しかし、隣に座る先輩は、息の詰まりそうな表情で楽譜を眺めている。 この人は沈黙と、俺のことが苦手なんだ。 お喋りでタイプの違う桐谷とは仲良く出来ても、俺とは合わないと思ってる。 面白い話をすれば、喜んで飛びついてくるのだろうか……。 実をいうと、藤堂朝陽のことは以前から知っていた。 弟、藤堂普一郎とは中学からの付き合いで、当時も吹奏楽部でクラリネット担当だった先輩のことは、よく見ていたのだ。 相手は俺の存在なんて知る由もなかったと思う。 それでも、あの頃の記憶は、掻き消すほど嫌な思い出ではないから。
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