彼、甘くない

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部長は生徒会にも入っていて、誰にでも好かれる人。 いつもたくさんの人に囲まれていて、俺が顔を見かける時は決まって満点の笑顔。 ――こんなに笑う人っているんだな。 きっと自分の持っていない物を持っている。 そんな所に惹かれた。 付き合いたいとか、今はそんなんじゃない。 ただ近付いて、何かを吸収したかったんだろう。 彼女に対する気持ちは、恋愛感情と言うより、尊敬や憧れの気持ちの方が強い。 でも、追っかけてまで入部してしまった行動力には、自分自身信じられない。 どうなんだろうな。 俺は部長のことを……。 恋愛感情と憧れの区別を説明する程の力はなく、藤堂は完璧に恋愛感情を抱いているのだと思い込んでいる。 だから怖い。 口は堅い奴だと思うが、くれぐれも姉に余計なことを伝えないでほしい。 変に勘ぐられたりするような面倒ごとは避けたかった。 翌日、瞼を押し上げると同時に、耳をつんざくようなアラーム音が部屋中に響いた。 時刻は午前六時半。 今日は街の楽器店で必要な物を買って……何をしよう。 「休みなのに早いな」 リビングへ降りると、既に部屋は暖房で温められていて、兄がぷかぷかタバコを吸っている。 木ノ内秋吉(キノウチアキヨシ)、八つ違いの兄は、建築会社に勤めるいかつい風貌の男。
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