彼、甘くない

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話し上手でまとめ上手。 歳の近い兄弟だったならば、親戚中に比べられ、俺は悲惨な目にあっていたことだろう。 「怜は今日出掛ける感じ?」 「うん、ちょっと楽器店に行ってくる」 「……楽器店って、それだけ?」 「まぁ」 スウェットのままだらしなくソファに腰掛ける俺を見て、兄は鼻で笑う。 「休日なのに、くっそつまんねぇなぁ。女の一人もいないのかよ」 「余計なお世話だよ。うるさいな」 兄は付き合って二年になる彼女、マユミさんとのデートの予定があるらしい。 彼女と会う時は、決まって朝から夜までのハードプランで、見ていてよく頑張れるなと思う。 「それと、今日俺、マユミの家にお泊りだから」 「……目がエロい。朝からやめろ」 「って言っても、マユミは実家暮らしだし、両親もいるからこえーよ」 タバコ吹かせ、お酒を飲み、それなりのことをする。 学生時代からイケイケだった兄は、そもそも自分とは次元の違う人間だった。 秋晴れの気持ちの良い朝、きっとデート日和になることだろう。 十時過ぎに家を出ると、俺は目的の楽器店を目指す。 自転車で十五分、休日の街は午前中から騒がしい。 信号の変わる電子音や車の走る音、人の声が絶え間なく聞こえる。
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