彼、甘くない

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達成感を覚えつつ廊下を歩いていると、他の教室から桐谷が走って出てきた。 俺には気付かずに、楽譜と筆箱を抱えて前を走っていく。 「あーさひ先輩」 語尾にハートマークをつけて名を呼び、クラリネットの練習教室へ入る姿は手慣れたものだ。 ――あいつって、極端に分かりやすいよな。 目がギラギラしてる。 入って間もない俺でさえ見ていてバレバレなんだから、きっと部内では皆が分かっていて口にしない事実なのかもしれない。 藤堂は知っているのだろうか。 本人は感じているのだろうか。 「で、ここのリズムを教えてほしいんすよ」 「自分のパートの先輩に頼んだ方が分かりやすいんじゃない?」 「いやいや、俺は朝陽先輩の方が分かりやすいんで」 教室に戻ると、桐谷はいつも俺の座る席に腰を掛けており、思いっきり先輩にベタベタしている。 分かりやすいも何も、リズム自体は一緒だし、誰から教えてもらっても同じだろ。 邪魔するのもなんだと思い、全く別の席につくと、自分は自分で練習を始めることにした。
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