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「楓。悪いけど、この洗濯物干しておいてくれる? 母さん、自治会の集りに行かなきゃならないから」
「分かった」
洗面所から聞こえた母の声に、膝に乗せた雑誌を捲りながら水原楓は返事をした。
「風で飛ばされないように、ちゃんと洗濯バサミで止めてね」
「はいはい、分ってますよ」
相変わらずソファーに座ったままの楓に、母はエプロンを外しながら続ける。
「また生返事して。楓はそうやっていつも――」
母がそんなふうに言うのも当然だと思いながら、『また』は母さんもでしょう? と頭の中で呟き、楓は話を摩り替える。
「母さん、行かなくて良いの?」
「あ、遅れちゃう。じゃあお願いね」
母は時計へ目をやると、急いで玄関を出て行った。それを見送ってから、楓は徐にたちあがり、籠に入れられた洗濯物を手にした。
別に母を嫌っているわけではない。進んで手伝いをする事や素直に返事をする事が、ちょっぴり照れくさいだけなのだ。
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