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「あいたた・・・飛ぶ練習なんかするんじゃなかったな・・・。」
彼は起き上がると同時に真っ先に慌てて自分の背中に手を触れた。
すると、柔らかくフワフワとした特殊な手触りが手に残った。
「よかった・・・羽も無事みたいだな・・・。」
彼の体には多くの枝が絡まり、傷が沢山ついたのだが、その枝のおかげで、地面には落ちずに済んだ。
青年の名前は理真。読み方はリシン。
彼は青い瞳に黒い短めの髪でライトブルー色の背広を身に まとっている。
ある部分さえ取り除けば普通の好青年に見えるであろう・・・。
そう、白く大きな立派な羽さえ無ければ。
『百聞は一見に如かず』
信じられない事かもしれないが、背中でバタバタと音を立てながら動く羽は、間違いなく確実に彼が天使で有る事を証明していた。
しかし・・・。
本来、天使は空を自由に飛び回り、翼を見せずに、そっと人が幸せになる手助けをするという天使特有の仕事が出来なくてはならない。
しかし最近、理真はスランプに陥っていた。
何故か突然 空を飛べなくなり、人に翼を見せてしまったりというミスを繰り返してしまっている。
他の天使からはバカにされ、ランクの高い天使からは怒鳴られる日々。
そして何よりも彼にとって致命的だったのは、きちんと仕事をしていても昔のような満足感や充実感があまり得られなくなった事であった。
昔は、どんなに辛くても苦しくても面倒でも楽しいと思えた仕事が、今では地獄のような とてつもない苦痛でしかなくなってしまったのだ。
『他にも天使は居るし・・・自分は別に頑張らなくてもいいだろう・・・』
そんな気持ちが理真の頭の中を駆け巡り、絶対に離れなかった。
今回の仕事は『この村にいる誰かの幸福の手伝いをする事』なのだが、成し遂げられるかどうか・・・それは誰にも、多分、仕事を引き受けた天使の彼自身にさえも分からない・・・。
理真は美しく黄葉したイチョウの葉が多く生い茂る中で、自分の背中に有る羽を跡形もなくしまい、木の枝を難儀しながらも木の上から地面へと飛び降り、着地した。
病院の周りに有る電灯や病院の中の光が漏れていて、木の下は かなり明るかった。
そして無事に着地したのを確認し、理真は安心して歩き始めた。
・・・その時だった。
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