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「もうすぐ授業が始まると言うのに…どこ行く気?サ、イ、コ、君?」
その凛とした声を耳にした途端、俺は げ、と顔を引きつらす。
この声は…今一番会いたくない人物ナンバーワンの奴だ。
出来れば聞こえなかった事にしてこのまま階段を駆け降りたい。
しかしそれは無理だ。
こいつに見つかった以上、逃げる事は出来ない。
息を一つ漏らし、腹を括り、…ゆっくりと振り返った。
「あっれ~?可笑しいなあー、返事が聞こえないんだけどー?」
制服をゴスロリに改造し、ゆるりと巻いたツインテールに、ニッコリと可愛らしい笑みを浮かべながら(だが黒いオーラが丸見え)今にも能力を発動しそうな女、天宮 風(ふう)。
彼女は風紀を見出す者は一匹たりとも逃さない風紀委員長であり、血の気の多い“ゴールド”の内の1人である。
彼女を苦手とする者は代表的に言えば逞だが─…この学校の四色以外の俺を含めた全員は絶対こいつが苦手だ。
なんせ、喧嘩っぱやいから。
「あたしに返事は絶対よ!!無視する風紀を乱す奴は───…死にやがれ!!!」
「──っ!」
叫びを上げる間もなく、“アイス・マスター”の彼女が生み出した氷のつららが勢い良くこちらに飛んでくる。
「“アイストーン”!ついこの間生み出した技よ!練習を重ねこの速さをも生み出した!あなたに避けきれるかしらねぇ!?」
確かに速い。
とてつもないスピードでこちらに飛んでくる。
だけど─────
「遅いよ」
パキン。
俺に当たる直前の一つのつららが、跡形も無く砕けた。
残りの無数のつららもパキンパキンと続けて砕けていく。
「なっ───!!」
驚いて声も出せない天宮 風。
今の新作の技に自信があったらしく、容易く砕かれた事にショックでその場に座り込んだ。
「あた、あたしの、あたしの、自信作がぁぁ…っ」
開ききったメイクの濃い瞳に涙が溜まっていく。
こんな所で泣かれたらまずい!
サイコは慌てて天宮の腕を掴んで階段を降りた所にある空き教室に入った。
入った所で腕を離し、下を向いてしゃくりあげる天宮に頭を下げる。
「えっと…その、ごめん。そんな自信作と思わなくてさ、…つい、壊しちゃっ」
ピロリン♪
人が真剣に謝っている場に明らかに相応しくない写メを撮る音。
顔を上げて相手を見れば、泣いてた面影はなんのその、ニヤニヤと笑いながら俺の方向にカメラを向けていた。
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