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影ある所に光あり
街道に涼やかな音が響く。
長い黒髪を躍らせて、ラシークが錫杖を振るう音だ。
その音とラシークの「お止まりなさい」と命じる声は、どこか清冽な気配と共に波のように広がり、鹿ほどの大きさのラーグノムを飲み込んだ。
音が過ぎ去った後には、命じた言葉通り動きを止めたラーグノム。
エルガーツは音を合図に動き、ラーグノムに肉薄した。
人に馴れた家畜でさえ逃げ出しそうな速度で近付くも、ラーグノムが動く気配はない。
「はぁぁっ!」
至近距離でエルガーツが剣を振り上げ、そのラーグノムへ切り下げる。返り血を避ける余裕すら持って、その命を絶った。
首が落ち、その体が後を追って血潮を吹きながら倒れ伏す。
旅の連れである二人は、ラーグノムに対する戦闘での役割分担を既に決めていた。
そして、髪紐を解いて錫杖に巻いたラシークが錫杖の先でつつくまで、三人目の旅の仲間ネトシルもまた動きを止めて、長い三つ編みだけが風に揺れていた。
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