マルボロの吸い差しを潰して

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その頃には、お酒を飲んでいたというのに、素面に近い状態に戻っていた。頭の中だけが妙に冷静になっている。 青年の話には余り現実味を感じられなかったが、彼の切迫した雰囲気からすると、嘘を言っている様にも感じられない。 だとしたら、その経験が彼をどういう人間にしていったのだろう。 「君、明日もこの公園、来る?」 不意に私の口を突いて出てきた言葉は、私自身にとっても思いもよらぬものであった。私は死のうとしていたのではなかったのか。 「うん、毎日来てる。僕、さっき君が言ったみたいに、きっと、明日も死ねないと思うけど。来なきゃいけないんだ、毎日来なきゃいけないんだよ、僕が精神の均衡を保つ為にはね。」 「もし、そのバランスが崩れたらどうなるの?」 興味本位で尋ねる私。 「その時は、僕は本当に、人を殺してしまうかも知れない。」
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