マルボロの吸い差しを潰して

6/15

31人が本棚に入れています
本棚に追加
/489ページ
そこには、一人の青年が立っていた。大きく目を見開き、私を見下ろしている。 まさか人間がいる訳がないと思っていた私は、パニックに陥った。しかし、それは彼とて同じ様で、私達は呆けた様に口を開けたまま、暫くお互いの瞳を見つめ合った。 「あ、あの、お邪魔してもいいですか?」 なんとか言わなきゃと咄嗟に口を突いて出たのは、そんな状況には不似合いな言葉だった。 なんせ私は、グレーのスウェットの上下を身に纏い、サンダルを履き、右手にはコンビニ袋、左手にはエルメスのバッグを提げていて、更に腹這いと云う格好であったのだから。 「あ、はい。どうぞ。」 青年の方も、私に負けず劣らず動揺している様で、まるで自分の部屋に客人を招き入れる様な言葉でと仕種で返した。
/489ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加