マルボロの吸い差しを潰して

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とりあえず中に入ろうと立ち上がった瞬間、私は頭を天井にぶつけてしまった。 「痛っ!」 と、思わず声を出してしまう程、強く。 それを見ていた青年が、堪え切れずに吹き出した。私がつられて笑うと、青年も声を上げて笑った。 思わぬハプニングのおかげもあり、私達の間を支配していた緊張が幾分か解れた。それでもこの状況の曖昧さは消える事はなかったのだが。 「よかったら、呑みませんか?」 私がコンビニ袋を突き出しそう言うと、青年は無言で袋を受け取り中を覗き込んだ。 コンビニ袋の中にはアルコール類が入っていた。睡眠薬とアルコールを多量に飲み、命を絶とうとしていたのだ。私はこの数ヶ月間、死ぬ為だけに複数の精神科に通いつめ、睡眠薬をかき集めていた。 「酎ハイばっかりだけど、飲んでいいですよ。どうせ一人じゃあ飲みきれない量なので。」 上目遣いで私の表情を窺う青年。酷く緩慢な動作で白桃サワーを取り出す青年。1番好きな味を取られた。最後の最後まで、私はツイていない。思わず苦笑が漏れる。
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