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イタリアのトスカーナ州、アレッツォ。
真冬の寒空の下。
俺は葬儀に来ている。
今にも雪が降ってきそうな鉛色の空に浮かぶ、鈍色の雲。
この寒さの中、黒い喪服を着た大勢の参列者達が、白く小さな棺桶を囲んでは、花を手向けていく。
俺はその光景を少し離れたとこから眺めながら、くわえていた煙草をポケット灰皿の中へ押しこんだ。
葬儀といっても、亡くなったのは俺の親族ではない。
アルド・アルディアーノ。
イタリアを拠点とする大企業の御曹子。まだ八歳だった。
アルドの死には様々な疑義がある。
自殺という説もあるが、マフィアによる威しを込めた殺害という線が高いと俺は踏んでいる。
俺はその捜査を任された刑事だ。
アルディアーノ家の表向きは、世界的に有名なブランド車の製造会社。
だが、裏側の黒い噂は絶えず耳にする。
一部の話では、アルディアーノ家はマフィアと深い親交がある。
もしくはボスである可能性も高い。
アルディアーノ家の御曹子、アルドは、その抗争に巻き込まれたのではないかと俺は考えている。
今日来ている参列者達の中に、何か事情を知っている者はいないか。
そう俺が参列者の様子を睨んでいると、葬儀場の野原の隅に、黒い高級車が停車した。
アルディアーノ家の車だ。
車から降りて来たのは、亡くなったアルドの双子の兄、エリオ・アルディアーノ。
エリオは白い百合の花束を手に、付き人を連れて、悠然とアルドの眠る棺桶に歩み寄って来る。
付き人の腕にはテディベアが抱かれている。
アルドの遺品だろうか。
彼等はまだ八歳の子供だ。
双子の片割れの死に、深く傷付いているに違いないだろう。
俺はエリオのもとに歩み寄り、一礼をした。
「エリオ・アルディアーノさん。弟さんがお亡くなりになりになられて、誠に残念に思います。」
俺がそう言って瞼を閉じると、クスっと小さな笑いが聞こえた。
俺は顔を上げる。
エリオは俺を見て、浅い笑みを浮かべていた。
「いいえ刑事さん。アルドは生きています。生まれ変わったのです。」
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