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「……」
声はでなかった。その青年は唾をのみ、目を見開くことしかできなかった。目鼻立ちのととのった顔がひどくゆがむ。
白いものが降ってきた。天井をすり抜け、彼に向かってゆっくりと落ちてくる。薄暗がりの中で、淡く発光しながら。
大きさは、握り拳ほど。球形である。輪郭が波のようにうねっているせいで、どこかぼやけて見えた。また、その下からは尾っぽのようなものが生えている。
幽霊。人魂。ゴースト……。オカルト的な言葉が彼の脳裏に次々と浮かんでくる。だが、そんな類を彼は断じて認めない。むしろ認めたくなかった。
ここは彼の借りているアパートの一室。真夜中で窓の向こうには闇が広がっており、しんとしている。部屋の中もまた然り。違いといえば、豆電球の明かりがあることぐらいだろうか。
彼は布団の上で仰向けになり、白いものを凝視していた。今すぐ体を起こし、部屋の明かりをつければ、この白いものを消せるかもしれない。しかし彼は動けなかった。恐怖と驚愕で、腰が抜けていたのだ。
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