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~激昂~
「変わってるな…、推理小説ばかりとは。」
黒澤が何気なく1冊の本を手に取り、開こうとする。
「聞こえませんでしたか?
私は“お引取りを”と言ったんです。
これ以上ここに留まるおつもりなら、法的手段に移らせてもらいます。」
間一髪のところで、件が黒澤の手を押さえる。
「…片桐、帰るぞ。」
「え…!?あ、はい。」
奈々子は状況が掴めないまま、黒澤の後を追い、階下へ降りていった。
「あの…、ごめんね、友香里。」
「また今度ちゃんと話をしましょう、いいよね…、奈々子?」
奈々子はそのまま逃げるように外へ出て行った。
その様子を見ていた黒澤が、こちらを見上げて件に向かって言った。
「また今度、話を聞かせてもらうぞ…、“川元”?」
「…ッッッツ!!早く帰れと言っているッ!!」
件が、件のものではない口調で、声を荒げて黒澤に怒鳴った。
黒澤はその態度を見て、勝ち誇ったような表情で、何も言わずに去って行った。
「カワ…、何だって…?」
「…奴の戯言を気にする必要はありません。」
件は階下に下り、黒澤を拒絶するかのように鍵を掛けた。
このままだと件が件でなくなってしまうような気がして、私は後を追う。
「…件、私にまだ何か隠してる?」
「言う必要の無いことです…、貴女には関係ない。」
「件、隠し事はしないって約束で…、」
「関係ないと言ッ…!!
…貴女も今日はお引取り下さい…、どうか、お願いします…。」
…今日の件は何だか別人みたいで、とても怖い。
「じゃあ、今日はもう…、帰るね…?」
私は鍵を開け、ゆっくりと扉を開いて外へと出る。
私が外に出ると、件は勢いよく扉を閉め、鍵を掛けた。
「ねぇ、件!!明日には、いつも通りだよね!?
また…、来てもいいよね…?」
件は何も答えなかった…。
意気消沈したまま、私は家路を往く…。
明日、いつも通りの件に会えると信じて…。
了
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