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「はるかー!走ったらダメよ。」
「大丈夫だよーママー。」
フルタイムで働くファミリーレストランを早退し、一人娘のはるかを病院へ連れて行った。
保育園から、はるかの喘息の発作が出たと連絡が来たのだ。
今年に入って3度目の連絡。
基本的に保育園では薬を預かってくれないので、すぐに掛かり付けの医師に吸入してもらうしかない。
「最近、発作の回数増えたなぁ。」
吸入をすると嘘のように元気になる。
「ねぇママ!はるか、もう苦しくないよ!」
「良かったね。」
取り敢えず一安心。
常備薬の吸入器が初めて処方された。
口で咥えてシュッと吸い込むやつ。
「そういえば昔、私のお婆ちゃんも使ってたなぁ。懐かしい。はるか、上手く吸い込めるかな。」
川沿いの遊歩道を歩きながら、空を見上げた。
「きれいな青空・・・」
見事なスカイブルーだ。
仕事も早退したことだし、やり残した洗濯物でも干すか(笑)
「ママー!見てー!四つ葉のクローバー見つけたよ!」
走ってくる、はるか。
ドスン!!
「あっ!」
はるかが転んだ。
「痛いよぉ!ママー!」
手を差し伸べようとした時
「大丈夫?お嬢ちゃん。」
細く、長く、そして美しい手がはるかを抱き起こした。
はるかの膝に付いた砂を、優しく、丁寧に払う。
どこか慣れた手付きだった。
手に見惚れていたが、
良く見ると男性だった。
「すみません!ありがとうございます!」
男性だったからか、美しい手をこれ以上汚してはいけないと焦ったからか、私は慌てて駆け寄った。
しゃがんでいた男性が顔を上げて私を見た。
栗色のサラサラな髪の毛に、宝石のような輝く瞳、白い肌に、スマートな口元。
まるで、絵に書いたような顔立ちだった。
『素敵な子・・・』
私は心躍った。
「良かった。大したことなくて。」
彼は言った。
はるかは彼を凝視し固まったままだ。(笑)
「ホン・・ト、ありがとうござい・・ました。」
私の声まで固まった。(笑)
「ヒロー!何してんだよ~。」
遊歩道の遥か先の方から一人の男性が彼を呼んだ。
「呼ばれちゃった。それじゃあね。お嬢ちゃん。」
そう言って、ゆっくりと長い足で去って行った。
夢から覚めたかのように、我に返った私とはるかも家路に向かった。
お互い、今日のスカイブルーを惜しむように・・・。
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