春の雪

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月が高く上がり、冷え込むと部屋には咳の音が響いた。 布団も冷えきっている。 その冷えた布団に市村は顔をうずめた。 咳の音は布団にこもった。 近くには背を優しく叩く人はいない。 布団が温かくなると咳は少しマシになった。 夜が深まると寂しさが、同じように増す。ふと腹に手を当て思うの事は (『あの方』は…まだ私の中に残っているのだろうか) と自分に問いかけた。 初め、入隊した頃は色小姓として扱われた。幾度か身体(からだ)を重ねていく内に、互いに人格にも引かれ合い 今度は好き同士で情を交わすようになった。 市村の中には何度も土方が混ざった。 それ故、自分にもこの方が生きていた証が有るのを期待した。 一人では無い、と思える。 日野へ向かう途中に、渡された旅費がつき、売って旅費にする為に渡された刀を売ると 孤独感が襲ってきた。 市村は哀しくなると、先程の事を思い出していた。
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