26人が本棚に入れています
本棚に追加
月が高く上がり、冷え込むと部屋には咳の音が響いた。
布団も冷えきっている。
その冷えた布団に市村は顔をうずめた。
咳の音は布団にこもった。
近くには背を優しく叩く人はいない。
布団が温かくなると咳は少しマシになった。
夜が深まると寂しさが、同じように増す。ふと腹に手を当て思うの事は
(『あの方』は…まだ私の中に残っているのだろうか)
と自分に問いかけた。
初め、入隊した頃は色小姓として扱われた。幾度か身体(からだ)を重ねていく内に、互いに人格にも引かれ合い
今度は好き同士で情を交わすようになった。
市村の中には何度も土方が混ざった。
それ故、自分にもこの方が生きていた証が有るのを期待した。
一人では無い、と思える。
日野へ向かう途中に、渡された旅費がつき、売って旅費にする為に渡された刀を売ると
孤独感が襲ってきた。
市村は哀しくなると、先程の事を思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!