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舗装の行き届いていない砂利道。
民家の壁に左右を挟まれたその道の左端。
そこに"それ"は座していた。
「……!」
そして"それ"は、ゆっくりと俯けていた頭を上げる。
――銀髪紅眼のビスクドール。
鈍い光沢を放つ銀色の長髪に、見る者全てを焼き尽くす鋭利な紅の双眸。
人形用の黒いレース地のドレス――いわゆるゴシックロリータドレスを身に纏っている。
突然訪れた非日常。
思わず息を飲んだ。
「また、かよ……」
この奇怪な現象に遭遇したのは今回で確か六度目。
人間、数さえこなせばどんなことでもある程度には順応してしまうとは言うが、あれは嘘だと思う。
……こんなこと、慣れる筈がない。
人形が気にはなるが、ここを通らねば自宅へは帰れない。
俺は人形の方へ歩みを進める。
「……」
交錯する視線。
生物とも、ひとえに単なる人形とも言い切れない精巧さがより恐怖を煽る。
――一歩、二歩、三歩。
当初、この人形に遭遇したのは、今の時間帯よりも少し経った夕暮れ時だった。
――四歩、五歩、六歩。
当初、俺はこの人形が動いたのは絡繰、もしくは内部に回路が組み込まれているのだろうと思っていた。
――七歩、八歩、九歩。
しかし、その予想は最悪の形で裏切られた。
――十歩、十一歩、十二歩。
「……」
止まる。
あと一歩踏み出せば、それは人形の横に立つことになる。
……そしてそれは、人形に近付く、という意味でもある。
――十三歩。
そのスペースに足を踏み入れ、まばたきをするまで。
その、一瞬。
……銀髪紅眼のビスクドールは、"消えた"。
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