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呼び出し音が耳に、鼓膜へと伝わる。
部屋全体が静まり返っているからか、携帯電話を当てていない右耳にまで反響して聞こえる。
プルルルルルルルル。
プルルルルルルルル。
四回、五回とコールし続ける。
普段は二、三回程度で繋がるのだが、時間が時間。
繋がらなくても何ら不思議ではないだろう。
やはりこの時間帯に電話、というのは少々無理があったようだ。
潔く明日、朝一で掛け直そう。
そう思い通話切断ボタンに指を重ねる。
と、
プツッ。
極めて僅かだが、ノイズの走る音が聞こえた。
これは、つまり。
「……っと、もしもし?」
慌てて携帯電話を持ち直すと、再度左耳にスピーカーを当てる。
常套句には、常套句。
返ってくるセリフを"もしもし"だとばかり思い込んでいたものだから、その返しは少々意外だった。
『毎度ありがとうございます。ドールショップ南の孤島です』
事務的な営業文句。
この声は母だろう。
偏見かも知れないが、生粋の理系ならではのハキハキとしたその口調は間違えようもない。
「あぁ、オレオレ」
自分で言っておいてこんなことを言うのもどうかと思うが、この返しはアウトだと思う。
素でそう返してしまって若干自己嫌悪に陥っていると、間を置かずして母の声は機械的に続けた。
『本日の営業は終了しました。ご用の際は後日、午前十時以降にお掛け直し頂ければ幸いです。業者の方は次のメールアドレスへ――』
「……」
えー。
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