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と、この状況を引き起こした当事者と目が合う。
「……あー」
やっぱ知らない奴だわ。
知っていることと言えば、声から推察した通りの女子、という点くらいなものだろう。
……尤も、人はそれを一般に"知らない"、と定義しているわけだが。
「……誰?」
沈黙に堪えかね、そんな言葉が口をついた。
実際、この女子生徒は見覚えはあるのだが、前述の通り面識がなく、又、正直同じクラスなのかどうかすら怪しい。
そんな認識しか持っていなかった。
「……」
と、
ユサユサ。
「え……あの、ちょ……」
え、今確実に目が合ったよな……?
本来、"起こす"という行為は、寝ている人間に限定して行うものとばかり思っていたのだが……
ユサユサユサユサ。
親の仇を目の当たりにしたかのような勢いで揺らされる。
揺らしている方も揺らしている方で、後頭部で括った黒い一房の髪が荒ぶって左右に揺れている。
顔が美形ということも相まって、何かもう色々と残念な次第だ。
そして俺が何をした。
――それから暫く脳をシェイクされ、何かもう今睡眠で補ったばかりの気力という気力全てを失った頃になってようやく解放される。
「……うあー」
頭痛い……
せめてもの抵抗に、その女子を睨め付ける。
「……」
睨み返された。
……ごめんなさい。
謝りますからその汚物を見るような目で見下すのは止めて下さい……
俺は明後日の方向を仰ぐと、そっと目頭を押さえる。
泣いてなるものか……
涙腺の崩壊を何とか食い止めていると、女子はこちらの心境など全く考慮していない調子で無情な言葉を発した。
「あ、起きてたの?」
少し泣いてしまったのは内緒だ。
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