陽炎の奥。

6/12
前へ
/22ページ
次へ
俺は父親と母親と三人暮らしで 古いアパートを借りて住んでいる。   『恭介。勉強はちゃんとしているのか?』 『はぃ・・・』 弾圧的な声が俺の頭上へ落とされる。 俺は昔からこうして両親の言うことに従ってきた。   俺は自分の部屋へ戻ると 引き出しからヘッドフォンを取り出し、 現実世界からログアウトする。   『今日もまた、降りそうだな・・・。』 カーテンの隙間から鉛色に覆われた空が覗いた。 そして、俺のそんな呟きに応答でもするかのように 雨は次第に勢いを増しながら降り始めた。   雨が霰の如く窓を叩き 俺を現実に戻そうとする。 俺はポケットに手を突っ込み ipotの音量を上げる。 まだ痛む拳を押さえながら・・・。   そして、気がつけば音量がこれ以上上がらなくなっていた。 がむしゃらに抵抗しても それは倍になって押し寄せてきていた。   空が一瞬ひかり、 直ぐに激しい轟音が鳴り響く 俺には、その雷鳴がたまらなく鬱陶しく、 ヘッドフォンのプラグから乱暴に引き抜く。   日付が変わって間もない時刻 俺は冷たいドアを開け放って 裸足で外へ駆け出した。 グチャグチャになった地面は 泥水と化して俺の足にまとわりつく   いっそう雨の勢いが増す。  『どうして!!』 何かを訴えたい気持ちで一杯だった。 でも、その後の台詞は出てこなかった。   あぁ・・・どうして俺はこんなだろう・・・ どうしたら強くなれる・・・   雨はやまない・・・ それでも雨は止まない・・・   そういえば、お前と初めて会ったのも こんな雨の日だったっけか・・・?   『詩織・・・』
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加