遠い理想郷

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少しだけ未来の話。 エム氏は超エリートのアストロノーツ、つまり宇宙飛行士である。歳は20代後半。一流の難関大学に現役で合格し、さらに狭き門の宇宙局に入省。並みいるエリートのライバルを蹴散らして、もうすでに何度も宇宙に行っている。 頭脳は明晰、体力はオリンピッククラスのアスリートに遜色ない。当然、実力に見合った野心がある。 彼の野心は人類初の地球型惑星への航海である。 砂漠の砂の数よりも多いといわれる宇宙の星々には当然地球の環境に似た惑星がある。人口爆発、森林伐採、温暖化、環境破壊。山積した地球の問題を解決するための宇宙植民は相当古い時代から提唱されてきた。それが現実にならなかった理由はひとつ、宇宙の広大さ、地球型惑星までの果てしない距離である。一番近いとされる地球型惑星まででも約15光年。光の速さで15年の距離といわれてもいまひとつピンとこないが、1光年を身近な単位に直すと9兆4500億キロメートルになる。月に行ったアポロ11号の最高速度は時速38000km。この宇宙船で15光年先まで旅をしようものなら、到着するのは430万年先になってしまう。
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