遠い理想郷

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しかしその問題もついに解決の目途がたった。ずっと開発中だった光速の10%の速度を出せる新型エンジンの実用化に成功したのだ。そのエンジンを積んだロケットであれば、15光年先の星までわずか150年の距離。150年と聞けば長く感じるが、430万年に比べればあっという間である。 エム氏は思う。人類の歴史は旅の歴史であると。アフリカで発生した原生人類ははるかはるか時を超えて旅をした。広大なアフリカの平原を行き、険難なウラルの山脈を越え、ユーラシアの東端に達すれば、或る者は氷河期で陸続きとなったアリューシャン列島を渡り、或る者は粗末なアシ舟で太平洋を往く。地球上に何万種、何千万種と生物がいようと、人類ほどに広く分布したものはいない。 であるなら、旅は旅こそは人類のDNAに刻まれた宿命であるのだ。 その人類が宇宙を夢見ることも宿命である。そして私こそが、人類という種に選ばれた旅人である。 エム氏の野心はそう訴える。
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