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深夜零時。
何処の家も寝静まっている時間帯だか、一軒だけうす暗い明かりを灯した家がポツンッとたっていた。一目見ると只の家にしか見えないが、りっぱな骨董屋である。
小さく門扉にかかっている看板が、夜風に揺られカタカタと鳴っている。それを通り抜け煉瓦の道を歩けば、家に似合わない洋風の扉。日本ならではの瓦の屋根に洋風の扉は、お世辞でも似合っているとは言い難い。
そっと窓から中を覗くと、ソファーに座り眠たそうに欠伸をしている少年と、暗い明かりの中で本を読む青年が居た。
「ふぁぁ……」
「春花。眠いなら寝てもいいんだよ?店番なら俺がするしさ」
そう言われ欠伸をしていた春香は、むっと頬を膨らませると、此方を見ずに本を読み続ける青年に春花は声を張り上げた。
「ダメダメ!今日こそ、ぜーったいに起きてるって海兄ぃと約束したんだ。だから寝ない!」
「約束を守る事は良い心掛けだ。けどね、俺は眠いのを我慢してる弟を見るのが、心苦しくなる程辛いんだ」
「……空兄ぃ。心苦しくなる程辛いなら、俺の目を見て言って欲しいんだけど!」
辛そうな声で言っているが、以前その目は文字を捉えたままだ。春花は六人兄弟の末っ子で、一番甘やかされている。特に長男の海に至っては、目に入れても痛くない、父親発言をする程の可愛がり様だ。一方、海と双子である空は春花に対してサバサバしている。弟だと大切にしているが、双子は双子。片割れが自分より末っ子を可愛がるのに、少しばかり嫉妬してしまうのだ。
「おやおや、まだ14歳だと言うのに可愛くない弟ですねー」
「空兄ぃ!」
無造作に骨董品が置かれた部屋は、二人の声がよく響く。それ以外が無音に等しいからだ。唯一聞こえると言えば、壁によりかかった古びた柱時計の秒針だけだ。
中央部に置かれたソファーから、春花はそっと立ち上がる。
ンッと背を伸ばし、固まった体を解していく。
「あー…珈琲飲みたい。飲みたいよね?春花」
「それって俺に淹れて来いって事?」
「それ以外に何がある訳?ほら早く!喉乾いたんだって」
読んでいた本に栞を挟むと、空はバシバシとテーブルを叩いた。一刻も早く、自分は珈琲を飲みたいのだ。
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