小さなお客様

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「さぁて…本題に入ろうか」 空は立ち上がると、何処から出したのか一冊のファイルを手にしていた。ページを捲りつつ、そっとソファーに腰かける。すると探していた内容を見つけたのか、その部分を広げたまま男の子の前へ突き出した。 「君の名前は、杉本直哉。享年五歳。生まれた頃から身体が弱く、入退院を繰り返していた。肺炎を拗らしてしまい、身体が持たず死亡。両親は…離婚してるんだね」 ツラツラと文字を読んでいく空に、杉本直哉は驚きと恐怖を感じた。なぜそこまで自分の事を知っているのか、そして自分がもう死んでしまっている事に対してだ。春花は気を利かせ、先程から席を離れている。この部屋の中には空と直哉、二人きりだ。 「間違ってた所はあるかい?」 「ありません。ぼくの名前は、すぎもとなおやです。あの…お兄さんに言った通り、ぼく死んじゃったんですよね?」 「みたいだね。まぁ、俺のコレが『外れる訳がない』よ」 爪で軽くファイルを叩くと、空は満足そうに微笑んだ。 「気付いたら、ぼくはこの家の前に立ってて…」 不思議そうに呟く直哉に、空はついつい笑みを溢してしまう。自分で分かってないんだ、やっぱり子供だね。 「人は死ぬとあの世に逝く、これは決まり事だよ。でもこの世に“未練”や“心残り”がある場合、あの世には逝けないんだ」 「み、れん…?」 聞き覚えのない言葉に直哉は首を傾しげた。自分がまだこの世に居るのは、“未練”があるから。しかし、その“未練”が何なのか自分では分からない。 「その“未練”があるかぎり…ぼくはこのままなの?」 まぁ、子供なりの質問だ。空の言葉をゆっくりと理解しようとする姿に、また笑いそうになってしまう。 「君は馬鹿だね。さっきからそう言ってるだろ?だから子供は苦手なんだ。第一、そんな幼い癖に“未練”がある事態、おかしいんだよ」 やだやだ、と呆れ果てた空に直哉はぐっと涙を堪えた。どうしてそこまで自分は言われているのか。ある意味死より辛い状況に、どうすれば良いのか分からず、うつ向き必死に耐えていた。 「ぅっ…ふぅっ…」 泣くな、泣くな泣くな!頭の中で何度も叫んだが、幼い感情は脆い。空の恐怖に耐えられなかった直哉は、小さいが嗚咽を漏らし始めた。
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