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「さあ!宴を始めましょう!」
乙姫さんは、威勢のある声で魚達に呼び掛けました。
いつの間にか、豪華なご馳走が数え切れないほど並べられています。
まるで舞台の袖から出てくる様に、他の部屋への出入口から華やかな人魚達が何人も出てきました。
人魚達が美しく透き通った声で歌い始めると、それに合わせて、ピアノやフルート、ハープなどの様々な音が流れる。
乙姫さんは、人魚のひれの形をしたお洒落なグラスにお酒を注いでくれました。
「お名前は何とおっしゃるのですか?」
そう言いながら、乙姫さんは天使の様に優しい微笑みを浮かべて、グラスを私に差し出してくれる。
「天草四郎と申します」
「素敵なお名前ですね」
「い、いや。そんなことないです」
思わず照れてしまった私に対して、乙姫さんは一層の笑顔を浮かべました。
「さあ。どんどん食べて、どんどん飲んでください」
目の前の広い空間では、人魚や無数の魚達が私のために芸を見せてくれる。
その光景は、まさに芸術とも言える壮大さ。
私はその踊りに感動すら覚え始めました。
とりあえず、伊勢海老食べよ。
あれ?この海老は、まさか乙姫さん達の仲間なのでは?
不意にそんな疑問を抱きましたが、私はそんな事を気にするのを止めて伊勢海老を頬張りました。
うまい!何てうまいんだ!
しかし、無数の魚達の中には、今、私が口にした伊勢海老と、全く同じ姿をした海老もいます。
何だか複雑だ……。
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