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私は乙姫さんから頂戴した、たまて箱をしっかりと脇に抱えて亀さんの背中に乗りました。
亀さんは宙に浮かぶように、ゆっくりと泳ぎ始めます。
今度は、しっかりと息を止めなければいけませんね。
「天草様は本当に強いのですね。目が見えなくなれば、その暗闇をご自身で照らし出す。素晴らしいです。“ヘーラー”を手に入れられるといいですね。そして、いつの日かブラックアウトを……」
透き通る様な水に入ると、亀さんは浜辺に向かって泳ぎ出す。
私は息を止めて、到着するのを待った。
強い?
弱いですよ。私は。
不意に思い出す一つの光景。
燃え盛る新撰組屯所は、今も目に焼きつくかの様に忘れられない光景。
その直前、私は火の海の中心にいました。
グチャ
訪れた永遠の闇。
自分の目が、刀によって斬られたことを悟る。
目頭が熱くなっているのは、悲しいからではなく両目を斬られたから。
視界は真っ暗で、何も見えません。
ただ気配で何となくわかりました。
目を切った人物は、静かに私を見下ろしています。
なかなか次の攻撃がこない。
わざわざ目など切らずに、一撃でやればいいものを。
屯所を燃やす火炎の音。
それ以外は時が止まったかの様な静けさ。
その中で確かに言いました。
「生きたいか?」
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