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「宮原、お前知ってるか?」
不意に、友人がいつだか言っていた言葉を思い出す。
「知ってるか?動物園のアリクイは蟻を食べないんだ。」
前に、友人の鳥井にアリクイの話をした時に返ってきた言葉だ。
その言葉を聞いた時は、一体何を言っているのかと思った。
今思えば、蟻を助けたいならアリクイをどうにかするしか無い、と言いたかったのかも知れない。
僕は老人の入ったトイレに駆け込んだ。
カギを掛け忘れていたらしく、扉は容易に開いた。
老人は驚いた顔でこちらに振り向いた。
僕は老人の服に手を突っ込み商品を取り出し、変わりにいくらかのお金を詰め込んだ。
商品を素早く棚に戻し、僕は店を出た。
帰り道を歩きながらあの時の老人の心情を想像する。
きっと、驚いたに違いない。
僕の事をどう思ったのだろう?
「ありがとう、本当に助かったよ。」と感謝したか、「偽善だ、余計なお世話だ。」と邪険に思ったかは分からない。
しかし、それでも宮原の中の無力感は消えていた。
そう言えば、ビールを買い忘れていたな、と静かに微笑んだ。
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