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仕事場に向かう移動車で、あいつは当たり前のように俺の隣に座ってきた。
俺は、あいつの事を無視して外を眺めた。
まだ朝だと言うのに、特殊な窓ガラスのせいで薄暗く見える。
「裕太~」
「…」
「眠いの?」
最近、呼び方を変えて来たあいつ。
俺が黙っていると、気にせず話しを続けて来た。
「俺も眠いよ。撮り溜めしてるアニメが……」
風景なんかこれっぽっちも入って来ない。流れるだけの街並み。
「ちょっと、聞いてる?」
あぁ、聞いてる。
楽しそうにアニメの話しをしていたあいつが黙り込んだ。
俺は目だけ動かしあいつを確認する。
どうせケータイでもいじり出したんだろうと見当をつけていた。
「ちょっ、なに見てんだよ!!」
あいつが俺の顔をジッと愛おしいそうに見つめていた。
一瞬、気持ち悪かった。
「いゃぁ、タマってジッとしてても絵になるなぁって思ってさ」
「キモッ…」
視線を外に戻し、あいつを小さく殴る。
たいしたダメージにはならないだろう。
「裕太くん…好きだよ」
殴った手を掴み、あいつが言う。
「ねぇ、俺のことどう思ってる?」
その返事は返さない。いゃ、返せなかった。
「離せっ」
掴む手を振りほどいて、身体ごと窓に向けた。
そして鞄から、携帯音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳にはめた。
適当に再生ボタンを押して、あいつを俺の心から追い出そうとした。
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