曖昧

3/4

132人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
仕事場に向かう移動車で、あいつは当たり前のように俺の隣に座ってきた。 俺は、あいつの事を無視して外を眺めた。 まだ朝だと言うのに、特殊な窓ガラスのせいで薄暗く見える。 「裕太~」 「…」 「眠いの?」 最近、呼び方を変えて来たあいつ。 俺が黙っていると、気にせず話しを続けて来た。 「俺も眠いよ。撮り溜めしてるアニメが……」 風景なんかこれっぽっちも入って来ない。流れるだけの街並み。 「ちょっと、聞いてる?」 あぁ、聞いてる。 楽しそうにアニメの話しをしていたあいつが黙り込んだ。 俺は目だけ動かしあいつを確認する。 どうせケータイでもいじり出したんだろうと見当をつけていた。 「ちょっ、なに見てんだよ!!」 あいつが俺の顔をジッと愛おしいそうに見つめていた。 一瞬、気持ち悪かった。 「いゃぁ、タマってジッとしてても絵になるなぁって思ってさ」 「キモッ…」 視線を外に戻し、あいつを小さく殴る。 たいしたダメージにはならないだろう。 「裕太くん…好きだよ」 殴った手を掴み、あいつが言う。 「ねぇ、俺のことどう思ってる?」 その返事は返さない。いゃ、返せなかった。 「離せっ」 掴む手を振りほどいて、身体ごと窓に向けた。 そして鞄から、携帯音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳にはめた。 適当に再生ボタンを押して、あいつを俺の心から追い出そうとした。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加