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彼女に連れられ、もう無抵抗な俺は、辺りを見渡す。
パティスリーの中から、一人好青年の優男が顔を覗かせていて、僕は曖昧に会釈をする。
「彼はパティスリー『Taught』のパティシエよ。私が家賃を徴収しに行くと、色々アタックされるから鬱陶しくて好きじゃないわ。ちなみに店名は彼の名前からきてたりする」
「へー……名前?」
「ええ。貴方が平凡な生活を送りたいのなら、彼には関わらないことね。名前とか。訊かれても教えないほうが無難ね」
「変わり者なのか」
優男そうなのに。
「ええ。どちらかというと、人殺しね」
「、」
「あら。どうしたの?」
「……………………はい?」
エート、ホンジツニカイメノソラミミ。
「ああ。人殺しと言っても。彼の意思では殺さないわ。彼はそれが職業なの。殺し屋ってやつね。本人は『パティシエが殺し屋とかなんか素敵』とか寝言言ってたわね」
「殺し屋……?」
そんな職業が実在するんですか。とか、いや違うよ落ち着け僕。
「それは犯罪ではなかろうか………!」
「ええ。まあ。そりゃあ、犯罪よね」
認めちゃったー。認めちゃったよこの子。いや、認める認めないじゃなくて。一般常識っていうか。ああ、もう。
「僕はとんでもない非日常に足を突っ込む気がする」
「歓迎するわ」
丁度、彼女のおうち兼事務所の前に着く。
なんで。なんで僕は足を踏み入れるんだろう。
ああ。先に死んだ奴が。呪っているんだ。と無理矢理納得させた。
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