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すると店内には誰もいないと思っていたのに、文庫コーナーからひょこ、と暗めの茶髪の頭が現れる。
ずっと屈んでいたのだろうか、気配がしなかった為陽香は一瞬キョトンとしてその頭を眺めた。遠目でも判る、無造作ヘア。
どう考えても男性の背丈で、入ってきた客の顔はだいたい見ていた筈なのに、その髪型に覚えがなかった陽香は首を傾げる。それに文庫コーナーだけでなく、基本的に屈まなければならない程低い位置まで並べていない筈だけれど、と。
何をしているのだろう……と思った瞬間、頭が動いた。
陽香は慌てて視線を手元に落とした。そっちを見てなんかいませんでしたよ、という感じで。棚の向こうからのそり……と現れた男が視界に入る。
暗い茶色の無造作ヘアの男は、襟の詰まった濃紺のピーコートを着て黒縁の眼鏡をかけていた。陽香が想像したよりも背の高いその男は、暗い目をしていた。
それだけではなくひどく不機嫌そうで、出会い頭に人を殴り飛ばしかねない雰囲気を醸し出しているのが判った。
一瞬で目を合わせてはならないと悟った陽香は、視界の端からその男を追いやるようにすすす……と身体を動かした。
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