枯れ果てたいくらい。

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 しかし、手には何か文庫本を持っていたような気がする。レジを打たなきゃいけないんだろうか……と考え、陽香は今すぐ奥にいる店長と交代したくなってしまった。  しかし店長が営業時間内に店内をうろうろすることはあまりない。今日に限ってバイトが来ていない為、閉店業務まで自分1人であることを恨めしく思った。  コツコツと足音が近付いてきて、陽香はふうと息をついた。 「いらっしゃいませ」  まったく何も気付いてないふうを装って、陽香はいつものように顔を上げる。  すると、長身の男の眼鏡の奥の瞳とばちりと目が合ってしまった。  男は襟で口元を隠すようにしながら陽香を真っ直ぐに見下ろしている。こんなふうに見てくる客などそうそういない為、陽香は一瞬動作が遅れた。  ピ、とバーコードを読み取らせ、声がひっくり返らないように陽香は低めの声で口を開く。 「660円になります。ブックカバーはおつけいたしますか?」 「……いや、いらない」  思わず身体の奥まで落ちていきそうな声に、どきりとする。 .
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