枯れ果てたいくらい。

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 シャッターを閉じ、店長と別れて陽香は傘を開いた。冷たい中に湿気が漂う空気にぶるりと震えて、身を竦める。そして、そのまま空を見上げた。  いつもなら月がその都度さまざまな形で浮かんでいる空は、真っ黒な雨雲が夜さえも覆い隠していた。  陽香はこうして道に一歩踏み出す前に、空を仰ぐのが癖になっていた。  どこまでも続きそうな雨雲に陽香は溜め息をつき、今年の誕生日に収とその恋人である後輩に貰った腕時計を覗き込んだ。  8時25分。ゆっくり歩いても、9時閉店の駅前の花屋には余裕で辿り着くだろう。  この本屋でバイトを始めた頃から続けている、月に一度の決まりごと。陽香はそれをもう6年程欠かしていない。  いつもの花屋の店員の女子大生は、雨の夜道に陽香を見つけると嬉しそうに手を振った。 「お待ちしてました。今月も、用意できてますよ」  気立てのいいショートカットの店員は「ショーコちゃん」と呼ばれ、バイトながら看板娘となっている。 .
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