枯れ果てたいくらい。

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 陽香は近頃、自分以外のものに時間を取られ、自分が削り取られてゆくのが大人なのだと感じていた。  我を失う程激務の中を生きているわけではないが、兄がいるとはいえほとんど一人っ子のような環境で育ったマイペースな陽香にしてみれば、世間の動く速度というのは速過ぎると思えた。  大人なのだから何とかそれについていっている体を装ってはいるのだが、やはりそのつけはしっかり払わされるもので、人一倍疲れやすい自分を持て余していたりする。  それを誰彼構わず愚痴ることも躊躇われて、度々夜更かしするのが常となっている。  疲れすぎて眠れないのではなかった。削ぎ取られた自分を補填するかのように、自分の時間に耽るだけの話だ。  子どもの頃から趣味にしていた映画鑑賞と、読書。睡眠時間を削るくらいしか、こういうことを日常的に楽しむ術がないのだ。  それでも、高校生の頃などとはさすがに身体が違ってきている。昔は夜眠らずもう1日を過ごすことくらい何とも思わなかった筈なのに、近頃はそこまでの夜更かしはさすがに辛いものがある。映画を1本余計に観ただけなのに、睡眠時間4時間でももう辛い。  あくびを噛み殺しながら、陽香はブックカバーを折る作業に神経を集中させた。 .
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