枯れ果てたいくらい。

9/23
前へ
/480ページ
次へ
「やだ、雨……」  レジを済ませた女性が、自動ドアの外に出てからそう呟いたのを聞いて陽香は顔を上げた。見ると、外は確かに雨だった。  呟いた女性は折り畳み傘を取り出して、事なきを得たようだ。  そういえば自分もロッカーに傘を入れてあったということを思い出して、陽香は息をつく。  薄暗くなった外の景色を見ながら、そういえばそろそろ母校の文化祭の時期だな、ということを思い出した。  思い出しはしたものの、陽香は卒業してから一度も高校に足を運んではいなかった。幼馴染みの佐久間収とその彼女に何度誘われても。  探そうと思えば、理由らしいものはいくつも見つかるのだろう。けれど、あえてそれを穿り返すのは嫌だった。  店内を見回すと、そろそろ客足が引いて行く頃なせいもあって静かなものだった。  閉店まで、あと30分。  そろそろレジを締める準備だけしておくか……と数回瞬きをして気持ちを切り替えつつ、陽香は今日回収した注文カードを書籍の種類別にまとめ始めた。 .
/480ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10943人が本棚に入れています
本棚に追加