水溜まりフォビア

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(…飴ない) 台所の何時もの飴用瓶に飴ちゃんの姿がない。 「……」 今日は桃の飴ちゃんを食べようと決意を固めてしまった所為もあって、この飴がないという事実は予想以上のショックを与えた。 そしてそのショックは、後に考えれば自分にとって余計なやる気を生んでしまう。 (…コンビニ行こう) よいしょ、と重い腰を持ち上げ、財布と携帯だけをズボンのポケットに突っ込み玄関へと向かう。 もう使うことが無くなる鍵で家の扉を閉めて、もう帰ることの無い家に背を向け歩き出した。 (少し、寒いか…) 秋の終わりにマフラーも着けないで外出するのは少々チャレンジャーだったようだ。 でも、戻るのも面倒で、俺はコンビニまでの五分寒さを耐える方を選択した。 どうやら午前中に雨が降ったらしく、コンクリートが全体的にしっとりと何時もよりその色を濃くしていた。 (これが蒸発したときの匂い、嫌いなんだよな…) 何かよく分からないけど、身体に悪い気体が出ている気がする。コンクリートが気体になったものを吸い込んでいるような。 水溜まりもこんなに出来ているから、きっと凄い匂いになるのだろう。すぐ足元にあるやたらに大きい水溜まりを見つめて、自然と眉間に皺が寄る。 (明日は外に出ないようにしよう…) あの匂いを嗅がないように。
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