第Ⅰ部 1-1 サヴォイ劇場

3/18
前へ
/1248ページ
次へ
楽屋に取材にきた新聞記者をあしらい終わると、飛紗は、背の高い通訳に声をかけた。 「吉川さん、ちょっと待って」 そして飛紗は、花束がたくさん積まれたテーブルから、マカロンの箱を取りあげた。 小柄な飛紗は、ロンドンでは、「動く日本人形」と呼ばれる人気者。毎日たくさんの花束や差し入れが届いていたのだ。 もっとも、新山座の最大の見せ場はサムライの斬りあいとハラキリで、飛紗の出番は少なかったのだが…… 「一緒に食べましょう」 「…え?」 吉川は、驚いたように、飛紗の顔を見た。 吉川は、先月新山座に入ったばかりの通訳兼交渉係。アメリカの大学を出たという変り種だ。 役者と違って、ライバル意識抜きで話せるので、飛紗にとっては安心できる相手だった。 それに……掘りの深い知的な顔立ちが魅力的だった。
/1248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1821人が本棚に入れています
本棚に追加