第Ⅰ部 1-1 サヴォイ劇場

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「だって、おかしいじゃない! 良い芝居を上演して、たくさんの観客が入って、みんな拍手喝采してくれるのに……どうして私たち、夕食が食べられないほどお金がないの?」 吉川は、いつもの生真面目な顔に戻って答えた。 「理由はいくつかあります」 彼は、劇場の料金が高いことや、広告費などが追加で取られて赤字になったことを説明した。 しかし、飛紗は吉川の説明に納得できなかった。 「でも、シュミットさんとやっていた時は、ずいぶん儲かったじゃない。いったい、何が違うの?」 新山座の始まりは、1902年。 ドイツで開催される博覧会にあわせて、興行師が日本の役者、芸人などをあつめ、芝居一座を結成した。 ちょうど日露戦争の最中だったこともあり、 「大国ロシアに戦いを挑んだ勇敢な日本人」 は、どこへ行っても大人気だった。 興行師に金を吸い取られるのがバカらしくなった新山座の人々は、独立し、自主公演をはじめた。 しかし、どこへ行っても、観客は入っているのに、懐具合は以前よりも寂しかった……
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