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ある夜、花子は、部屋の暗闇に吉川の気配を感じた。
「会いに来てくれたのね!」
花子は思わず話しかけたが、彼は答えてくれなかった。
「ねえ、何かいいたいことがあるの?」
花子は、暗闇に向かって呼びかけたが、返事はなかった。
(なにか私に伝えたいことがあるの? やり残したことがあるというの?)
花子は心の中で、必死に呼びかけた。
(――あっ!)
花子は、忘れていた彼との約束を思い出した。
ロシアに行く、スタニスラフスキーの前で演じる、と花子は彼に誓ったのだった。
何もしないで閉じこもっている私を見たら、あなたはどうするかしら……
自分のために悲しんではいけないと叱るかしら……
花子は一日中、考えた。
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