第Ⅲ部 9-1 オデッサ

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花子はふと、かつて共演した女形が言った、女形は“男が己の肉体を殺して演じる”というセリフを思い出した。 女役の色気は、女を常に意識しているところから生まれる。 生まれつきの女であれば、日常的に女の色気をいちいち意識することはない。 しかし男が女を演じる女形は、自然のままでは成り立たない。 そして、女の色気を良く知っているのは、実は男。 だから、男が女を意識的に演じる女形は、実際の女というより、現実とはかけ離れた“女の美しさの象徴”のような存在になる。 そしてそれは、一旦意識することを止めると、あっという間に消えてしまう。 雨上がりの空に、つかの間かかる虹のような…… そのはかない美しさには、魔力がある。
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