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「ん」
少年はその内の一つを差し出した。
「(貰っても…いいの?)」
彼女の言葉は通じないので手渡されたパンと自分を交互に指差す。
「いいよ」
手でグッドとすると彼女は花が開くような笑みを浮かべて袋を開けた。
そして、しばらく停止。
「(これは、何パン?)」
袋を開けても特徴的な匂いはしない。
彼女は辛いものは大の苦手だ、マスタードなんて入っていた日には一晩中辛さに悶えるだろう。
少年は彼女が食べないのを不審がっている。
「(ええい、こうなったら…)」
端っこをかじる。
パンの味しかせずもう少しかじってみる。
柔らかな甘い味。
「…嫌いだったのか? クリームパン」
少年の問いかけを無視して大きくかじりつく。
「…そうか、何かわかんなかったのか」
少年は安心したようにすくめていた肩を戻し、もう一つのパンの袋を開ける。
「……」
じっと少年は幸せそうに食べ続ける彼女を見る。
ふと思ったある感情。
それを少年は心の奥底にしまいこんだ。
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