プロローグ

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いよいよ脅しをかけてきた低い声に、上げたくないけど顔を上げた。 思った通りそこにあるのは、不快感を隠さない、舌打ちでもしそうな不機嫌な顔。 「あ…あと10秒、いえ、さ、30秒だけ猶予――」 「ブッサイク」 「を…」 「顔真っ赤、目ぇ充血し過ぎ、涙垂れてる鼻水垂れてる」 「…………」 「鼻かめブサイク」 “マジ近付きたくねえ”。 ティッシュ箱をちょいちょいと指差すその態度は、言葉にするならそんな感じで。 あたしを「不細工」と称した彼の顔は、その表情に多少の歪みがあるものの、憎たらしいくらいに整っている。 今まさに彼がしている切れ長の目を更に細めた表情は、「知的」だの「Sっぽくて“いい”」だの評判だ。 何が“いい”だ、何が。 「……すごいです、佐保先輩」 ……佐保哉太(さほ かなた)。 持っているCDは全てクラシックらしいという、恐るべき大学生。 「涙が一瞬で止まりました」 「いいからかめ。垂れてんだよ鼻水が。止めんなら鼻水にしろ」
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