序章 覚醒

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――――目覚めたかね。 暗闇に低い声が響く。年の頃は初老であろうか、しゃがれた声をしている。研究者を思わせる薄汚れた白衣と円い金縁の老眼鏡を身に付けていた。 老人の声に反応するかのように、漆黒の暗闇に佇む円柱の中から、こぽこぽと気泡が浮きだつ。円柱の内部は特殊な液体で満たされており、ぼんやりと人の形が浮き上がっていた。ただしその"彼"には無数のコードが繋がれており、とても生きた人間とは見てとることができない。 ――――君はコードネームhn099、世界の秩序と平和を陰ながら守るという崇高な目的の為に産まれた。 老人が一度話を区切ると、再び気泡が浮いた。今度は先程よりかなり大きい。 ――――そろそろ肺呼吸に切り替えた方が良さそうだね。 そう言って老人が手を挙げると、暗闇の中から一つの影が滑るように移動し、円柱の下部に取り付けられたスイッチを押した。円柱にたまっていた液体はゆっくりとひいていく。 暗闇から現れた影は、再び暗闇の中へ溶けていった。 ――――不思議かね。なに、君もすぐ出来るようになる。 液体が全て退くのを待ってから、老人はおぼつかない足取りで"彼"に近づいた。そして"彼"を一瞥し満足そうに頷いて見せてから、懐から取り出した特殊な拳銃を取りだした。 ――――君に崇高な使命を与えよう。僕のために、世界の為に働いておくれ。 言うが早いか、取り出した拳銃を"彼"の首筋へ当て、一気に引き金を引いた。 鈍い音が暗闇に響く。 "彼"の体は僅かに振動したが、倒れる事なく、老人の前にあった。そして存在する空間に劣らない漆黒の瞳を見開き、一言、こう言った。 「イエス、サー・マクシタン」
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