第一章 呪われた秩序

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貨幣制度が撤廃してから、ほとんどの取引は物々交換で行っている。当然交渉が決裂することもあるが、多くは争いに発展することはない。人々は手の甲にそれぞれバーコードを彫られ、そのバーコードが身分証明や貨幣の代わりをしていた。一度の交渉で不足分が発生すると、データが残る仕組みになっているらしい。不足を補わない限り、未払分として残ったデータにより他の交渉に向かっても上手くいかないことが多い。不足分を踏み倒す事が不可能なわけではないが、そう言ったカルマ値の低い者はいずれ年老いて自らが生産性をなさなくなった場合などに周りから見放される事となる。国から保障されないということはそういうことだった。皆、万が一の時の為にカルマを保つよう努力していた。 理苑も紫園も普段はもっと静かな緑の多い場所で暮らしている。かつて町や村と呼ばれた規模で、電気や水道は通っているが、ほとんどが自給自足の生活だ。時に薬など集落で手に入らない物を仕入れたり、村の生産物に余剰が出たりした場合にこうして大きな街へと出向く。だいたいのペースは月に2,3度で、今回は理苑の当番だった。一緒に来た集落の仲間も他に4人程いるのだが、それぞれ待ち合わせの時刻までは別行動だ。本来は仕入には15才以上と決まっていたが、どうやら集落の誰かが街の情報を紫園に聞かせたらしい。出掛ける前に姿が見えなかったので理苑は友達と遊んでいるとばかり思っていたが、街へ行くビークルを走らせてからこっそり紫園が乗り込んでいたのに気づいた。そのまま帰らせることも出来たが、仕入のグループリーダーである翔が責任を取ると言うことで仕方なく連れてきたのだ。 しかし、その翔もまた別行動でいつの間にか姿を消し、結局は姉の理苑が弟の面倒を見ることになっていた。 暫く紫園の様子を見ながら考え事をしていた理苑は、弟が人混み観察に飽きた様子に気付き、声をかけた。
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