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ビークルに乗って集落に着く頃には、もうすっかり日が暮れていた。そこかしこの家にはぼんやりオレンジの灯りが点っている。
理苑の所属する集落では、食事や入浴は協同だった。個別にも所有している家も多かったが、集落の幼い子どもや老人の手伝いをするため、多くは協同生活を送っていた。
理苑達姉弟も同様で、特に幼い頃事故で両親を亡くして居たこともあり、民衆はとても協力的だった。その恩返しとして、二人は協力することを惜しまないようになっていた。
食事と入浴を終え、すっかり疲れて寝入ってしまった紫園を抱えようか起こそうか悩んでいると、翔がビークルを回してやって来た。
「お疲れさん、理苑。送っていくから紫園載せなよ」
20代後半になり、男らしさを身につけた翔はかなりの男前だった。背も高く、主に畑作や道の整備などを仕事にしているからか、良く引き締まった筋肉の持ち主だ。しかも、紳士的。こんなにいい男が何故結婚しないのか理苑は不思議に思っていたが、実際には周知の事実であった。
翔は理苑に惹かれている。
色々と理苑達の世話を焼いてくれるが、理苑はその行動を他の人の親切と同じに捉えている。更に翔は翔で、小さな弟の面倒を懸命に見ている理苑に対し恋愛を無理強い出来ないと一歩引いたアプローチをしている為に、理苑が気づく事は余計になかった。
「ありがとう」と言いながら助手席のドアを開こうとすると翔が降りてきて、後部座席にさっさと紫園を乗せてしまった。
遠巻きに見ている物好きな民衆達が、いよいよ本格的なアプローチか、とざわめく。
「紫園も横になって寝た方がいいだろ」
その言葉に民衆達はがっくりと肩を落とす。ただでさえ鈍い理苑に、そんな言葉では何も通じないのに、と聞こえて来そうだ。いや、実際に口にしていたものもいただろう。
そんな民衆達の一喜一憂には気付きもせず、理苑は感謝しつつ助手席に乗り込んだ。
ビークルであれば、食堂から家は一瞬だ。すぐに家に着いて紫園をベッドに運んでから、理苑は翔にお礼としてお茶をご馳走していた。特にお喋りな二人ではないので、静かに時間が過ぎていく。
「やっぱり、おかしいかな」
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