読むと死ぬ本

10/15
前へ
/15ページ
次へ
「これはこれは、お客様ですか。どうぞごゆっくり、ご自由にご覧ください」  ニット帽の女性はこちらに近づき、営業スマイルとでもいうのだろうか、白い歯を見せながら笑みを浮かべた。  だが目が笑っていない。その鋭い目で睨まれている気になる。 「ハルちゃん、目つき悪いよ。お客さん怖がっちゃうよ」 「うるせぇな。無理に笑おうとすると顔が引き攣るんだから仕方ねぇだろ」  ハル、と呼ばれた女性は横目でテオを睨みつける。正直、顔が引き攣りそうなのは俺の方だ……。 「それより、彼はとても珍しい本を探してここにきたみたいだけど?」  そう言ってテオは視線をこちらに向ける。ハルもつられて俺に目線を戻した。 「珍しい本……?」  今度は口もとの笑みさえ浮かべていない。その鉄板さえ貫きそうな鋭い視線に思わず身を引いてしまう。 「見てみればわかるけど、ここには珍しい本ばっかありますよ。探してる本のタイトルはわかりますか?」  本棚に並んだ背表紙に目をやる。少なくとも俺が知っているタイトルや出版社は見当たらず、彼らの言う通り希少価値のある書物が、ここには置かれているのだろう。 「あの、全知全能の書と呼ばれる本を探しに来たんですが……」  俺が本の名前を口にした途端、先程から穏やかな顔をしていたテオも、もとから険しい表情のハルも、張り詰めた驚愕の表情に変わった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加