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「これはこれは、お客様ですか。どうぞごゆっくり、ご自由にご覧ください」
ニット帽の女性はこちらに近づき、営業スマイルとでもいうのだろうか、白い歯を見せながら笑みを浮かべた。
だが目が笑っていない。その鋭い目で睨まれている気になる。
「ハルちゃん、目つき悪いよ。お客さん怖がっちゃうよ」
「うるせぇな。無理に笑おうとすると顔が引き攣るんだから仕方ねぇだろ」
ハル、と呼ばれた女性は横目でテオを睨みつける。正直、顔が引き攣りそうなのは俺の方だ……。
「それより、彼はとても珍しい本を探してここにきたみたいだけど?」
そう言ってテオは視線をこちらに向ける。ハルもつられて俺に目線を戻した。
「珍しい本……?」
今度は口もとの笑みさえ浮かべていない。その鉄板さえ貫きそうな鋭い視線に思わず身を引いてしまう。
「見てみればわかるけど、ここには珍しい本ばっかありますよ。探してる本のタイトルはわかりますか?」
本棚に並んだ背表紙に目をやる。少なくとも俺が知っているタイトルや出版社は見当たらず、彼らの言う通り希少価値のある書物が、ここには置かれているのだろう。
「あの、全知全能の書と呼ばれる本を探しに来たんですが……」
俺が本の名前を口にした途端、先程から穏やかな顔をしていたテオも、もとから険しい表情のハルも、張り詰めた驚愕の表情に変わった。
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