読むと死ぬ本

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 ――本を読み終えたのは、表紙を開いてからちょうど2日後だった。目次から始まり本を閉じるまでの2日間、何も飲まず食わず、一睡もせずに読みつづけた。  全知全能の書、その名前に何も嘘偽りはなかった。世界中の語学、地理、難解な数学、歴史の影に消えていった文明まで、この本には全てが書いてある。  そのくせ、その難解な内容を理解するのに読解力は、最低限ひらがなさえ読めれば小学生だって読破できるだろう。  今の俺なら、世界中どこの言語でも即座に同時通訳だってできるし、海に沈んだ古代遺跡の象形文字も解読できるし、箱の中で死んでいると同時に生きている猫の理論も崩せる、ハンデをもらった亀に追いつけないアキレスの理論も否定できる術も覚えた。  いや、使い古された言葉だが世界征服だって1年……いや、計算では半年もかからない。      ……だが、そんなことをして何になるんだろうか。  どれだけ権力、富、名声を手に入れたところで、人間は、いや、地球にいる生物全ては、絶対に最後には死ぬ。  誰だって死ぬ、それが早いか遅いかの違いだけだ。死んだものは生き返らないし、寿命を延ばす手術だって限界がある。  早いか遅いかの違いだけ……。  目の前に置かれた、グレープジュースのような濃厚な赤紫の液体がつがれたグラスを手にとる。  自分で作ったばかりの、この本に書かれていた、毒薬だ。飲めばすぐに効き、苦痛もなくすぐに死ぬ。グラスのふちに唇を触れ、一気に飲み干す。上品で甘美な――死の味がした。  すぐに意識が薄れていく、指先の感覚もなくなっていく。心残りなど何もない、俺は全てを知ることができたのだから……!  ただひとつ気になるとすれば、この本……。  このほんは、このあと、どこにい
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