読むと死ぬ本

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 商店街から少し離れた大通り沿いにある個人店。地図にしるされた書店はここだ。100年以上続いていると言われても納得できそうな、趣のある古びた店だ。  期待で震える手で引き戸を開ける。古本屋独特の、少しカビ臭い紙とインクの匂い……ではなく、乾燥させた香辛料のような、苦いような辛いような香りが鼻を刺激した。 「いらっしゃい」  店主だろうか、店の奥に腰掛けた男性が会釈してきた。年齢は俺と同じぐらいの、二十歳そこそこだろうが、彼の髪は雪兎のように白く、瞳は澄んだ海のような緑色をしている。日本人ではないのだろうか。 「何をお探しでしょうか、身体の不調を教えていただければ、それにあったお薬も調合できますが……」  薬……? 確かに店の棚には薬草や、それで作られるであろう粉薬や丸薬が並んでいる。だが待て、ここは全知全能の書がある古本屋ではないのか? 「あの……ここは古本屋ではないのですか?」  店主にそう伝えると、彼は目をパチパチさせ、珍しいものを見るような目をこちらに向けた。 「本を……そうでしたか。古本は地下で取り扱ってます。ご案内しますよ」  彼は至極ゆったりとした動作で椅子から立ち上がり、店の外へ出た。彼に着いて進むと、薬屋の脇に地下へと続く階段が見えた。
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